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やっちゃ場の朝飯 [下町の時間]

やっちゃ場の朝飯

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 先月、大阪から出てきた友達に誘われて家の近くにある舎人市場の場外食堂「千住 佐野新」に朝飯を食べに行った。ホコホコとした鰯のフライの美味しさに感激したが、そこのおかみさんがほくと幼稚園も小学校も同じだったことを知ってさらにうれしくなってしまった。

 その日は本当は千住のやっちゃ場に朝飯を食べに行こうと誘われたのだが、朝早くから千住まで出てゆくのが億劫だったので歩いて行ける近場の舎人市場に行くことにしたのだが、市場で朝飯を食べるのも存外楽しいことを知って、今度はやっちゃ場で朝飯をしようという約束をしてその友達と別れた。

 数日前その友達から今度こそ千住のやっちゃ場に朝飯を食べに行こうというメールがきて、昨日の朝出かけて行った。朝八時に京成千住大橋の駅で待ち合わせた。約束の時間より少し早く着いたので駅の周りを少し歩く。駅のまん前に店があった薬局のやっちゃんと隣の煎餅屋のみっちゃんは小学校の同級生だったが、二軒とももうそのお店はなくなっていた。

 ぼくは幼稚園に入るころまでやっちゃ場のすぐ裏に住んでいて、そのあとそこから歩いていける距離だがもうすこしお化け煙突よりの町に引っ越したので、やっちゃ場周辺の記憶はあまりはっきりとはしていない。それでも今の雰囲気は当時とは随分と変わってしまったような気がする。

 駅に戻ると友達はもう来ていた。二人で連れ立って行ったのは、やっちゃ場の入口にある「武寿司」だった。友達は以前一度来たことがあって、その時朝飯に食べた魚が美味しかったので、またその店に行こうということになった。小さな店で四、五人が座れるカウンターとテーブル席が二つくらいなのですぐいっぱいになってしまいそうだ。

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 ぼくらが店に入った時にはカウンターの奥に夫婦らしい中年の男女が一組座っていた。ぼくらもカウンター席に座った。注文は友達に任せた。彼は酒と食べ物については玄人はだしの知識を持っているので彼と一緒のときはいつも彼に任せっぱなしにしている。鰹と鰈の刺身、とり貝をつまみにまた朝からビール。

 カウンターの向こうで刺身を盛っている店の主人に「この店はいつ頃からここでやってるの」と聞くと、ちょっとむっとした風で「戦後ずーっとここでやってますけど…」とにらみ返すように言われた。こりゃまずいなと思って「いえね、オレも子供の頃このやっちゃ場のすぐ裏で育ったもんで…」とあわててフォローを入れた。

 奥からおかみさんがでてきて「あら、どこら辺なの。うちの人もずっとここで育ったから、もしかしたら知ってるかもしれませんよ。おいくつかしら、うちのよりずっとお若いと思うけど…」 「オレ? 昭和二十二年生まれだけど」 「あら、そんじゃ、うちのと同い歳だわ」 店の大将の顔がいきなり弛んで「ダンナさん学校どこ?」 

 「オレは千二小だけど…」ぼくが言うと、「アタシもですよ。じゃ、おんなじだ
」と大将。千住第二小学校をぼくらはセンニと呼んでいた。「え、そうなんだ、何組? オレは5組だったけど」 「アタシは2組でした」 ぼくらの小学校では卒業までの6年間一度もクラス替えがなかったので、クラス名を聞けばそれだけで分かるのだった。

 「そうか2組か。家に帰ったら卒業アルバムを見てみるよ」 「6年2組の卒業写真を見ればすぐわかりますよ。なにしろ撮影の日に学校休んじゃって、アタシだけ丸の中に入ってますから…」 脇からおかみさんが「いまの面影があるからわかりますよ」と口をはさむと、大将は「へっ」と。

 それから寿司をつまみながら話が弾んだ。先だって行った舎人の佐野新の話や同級生の動向そしてこの千住のやっちゃ場のこと。このやっちゃ場は三百年以上の歴史があるのだが、魚や生鮮野菜の販売主流が大手のスーパーになることによって、卸売市場を通さない扱いが増えるなどで今のやっちゃ場にはぼくらが子供の頃のような賑わいはない。自分の脳裏にかすかに残されていた往時のやっちゃ場の喧騒を想ってちょっと感傷的になってしまった。朝のビールは心に浸みわたるのだ。

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 *ぼくはなぜか昔からやっちゃ場に縁があって中学時代通っていた両国中学のすぐ隣が両国のやっちゃ場でした。ぼくが入っていた剣道部の道場は塀を隔ててすぐ向こうがやっちゃ場の競りをする処だったので、夏の暑中稽古の後などは声をかけると、塀の向こうから冷たいスイカを放り込んでくれたりしました。その両国のやっちゃ場のあった処も今は江戸東京博物館になってしまいましたが…

**「やっちゃ場」というのは東京の言葉で野菜や果物などを扱う青物(あおもの)市場のことです。千住のやっちゃ場もぼくの子供の頃の元は青物市場だったのですが、今は青物は舎人に集約されて千住は魚などの海産物が主流のようです。両国のやっちゃ場も青物市場でした。
 やっちゃ場の名前の由来は、ぼくは「やちゃい(野菜)」が語源だと聞かされていましたが、明鏡国語辞典や日本語語源辞典で調べてみたら「やっちゃ、やっちゃ」という競りの掛け声が元だと出ていました。


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コメント 8

risho

いいですね!!
下町の話 その会話、目に浮かびますよ!
by risho (2009-06-24 21:54) 

鋭理庵

朝のビールが旨そう!
by 鋭理庵 (2009-06-25 03:13) 

SilverMac

入った店が同級生、奇遇ですね。話が弾んだことでしょう。「やっちゃ場」は競りをする場所なのですね。
by SilverMac (2009-06-26 09:42) 

mimimomo

故郷がしっかりある方はいいですね~ 
朝からビール・・・はやはり凄い!^^
by mimimomo (2009-06-26 09:45) 

テリー

幼稚園、小学校の友達がまだ、いるというのは、いいですね。
by テリー (2009-06-26 17:35) 

engrid

ムスッとした大将の顔がほころぶ
いいお話ですね。朝から気持のいい出会い
by engrid (2009-06-29 16:51) 

kumimin

こんばんは。
昔から住み続けてる方がいらっしゃるんですね。
偶然に懐かしいお話ができてタイムスリップしたみたいですね。
by kumimin (2009-06-29 23:12) 

リフソロ

心に染む話しです。
ちっちゃな子供の頃のことは、ズ~ッと経っても変わらぬことです。
想い出は大切にしていきたいと感じました。
by リフソロ (2009-07-02 09:26) 

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