So-net無料ブログ作成

旅先の時間 [gillman*s Lands]

旅先の時間

Kinderdijkbf01.jpg
Kinderdijkbf02.jpg
Kinderdijkbf03.JPG


 もう昔のような旅はできないなぁ、と思った。20キロもの重いトランクを振る下げて、もちろんその頃はキャスター付きのトランクなんか無いものだから持ち手を頻繁に替えながら、最後は引きずるようにして街なかを歩いた。

 見知らぬ土地で街に着くまでその日泊まる宿も決めていなかったから、駅の案内所で安い宿がみつからなければ、一旦トランクを荷物預かり所に預けてから街に宿を探しに行った。宿が見つかったらまた駅まで戻って荷物を宿まで運ぶのだ。もう、45年も前の話だ。

 それが今はどうだろう、キンデルダイクの堤防から運河に沿って幾つか残っている風車を見るのに運河沿いの道を20分たらず歩いただけでもう、ちょっと辛くなってくる。それも、手ぶらだし小さなカメラ一つ首から下げているだけなのに…。

 オランダの風車はドイツやスペインのそれのように粉を挽く動力としてではなく、絶えず低い湿地に流れ込んでくる水をかい出すためのものだ。もちろん今ではその役目は強力なモーターが担っている訳だけど、文化財として今でも風車を残している。

 そこでは幾つかある風車の一つが内部も公開されている。観光客が列をなして入場を待っていた。もちろん入場料は取られるのだけれど。風車に近づいて見るとそれは思っていた以上に大きい。ドンキホーテが怪物に見立てたのも無理からぬ大きさ。それに帆を張った風車(かざぐるま)はものすごいスピードで回っている。

 ぼくが中を観終わった頃、風車はもう止まっていた。というより羽が何かで固定されて回らないようになっていた。他の観光客達は出て行ってしまったけどぼくは風車小屋の外に立って、あたりを見渡していた。すると上下のつなぎを着た一人の青年が風車の歯車らしいものを操作したり、大きなハンドルを廻したりしているのが見えた。

 どうやら、この青年が風車(かざぐるま)の操作をしていたらしい。もう夕方近くになったので観光客も減ってきて今日の彼の仕事も終わるらしい。ぼくの周りにも殆ど人が居なくなった。それでもずっと彼のことを観察していると、風車の入口とは反対の運河に沿った方向に歩き出した。

 少しゆくと、そこからは立ち入り禁止の柵があってその手前で、彼は置いてあった自転車に乗って運河に挟まれた狭い道を走り出した。その向こうにはもう一つの風車小屋がある。さっきその対岸を歩いてきたのだけれど、その風車の脇には小さな小屋があって誰かが住んでいる様子だった。

 その時気が付いたのだけれど、彼は風車守できっとあの風車小屋に住んでいるのだ。以前何かのテレビ番組で今でも風車小屋を守るために風車守としてそこに住んでいる人が居るというのを観たことがある。彼は一日の仕事を終えて、今自分の風車小屋に帰るところなのだ。それが彼の日常なのだろう。後姿に、なんかいそいそとよろよろと家路につく彼の気持ちが表れていた。ぼくは暫く彼の後姿をじっと見ていた。なんか抱きしめたくなるような愛しい時の流れ。

 これって好い風景だなぁ。沖縄でもヨーロッパでも、言ってみればウチの近所の公園だって、ぼくが見たいのは結局そこに流れている静謐な時間そのものなのだ。平凡でありきたりな、しかし本当は稀有な瞬間、蜉蝣のように儚い静謐な時間。ぼくは旅先でその土地に流れている「時」に触れて、できればその静謐な時を自分の記憶に留めておきたい。ぼくが写真を撮るのは、ただそれだけのためなのかもしれない。写真はぼくにとって記録ではなく、記憶なのだと思う。

Kinderdijkbf03.jpg
Kinderdijkbf04.jpg


 
MC900228851.jpg
Lands.gif



 *ぼくはオランダの画家、ヤーコプ・ファン・ロイスダール(Jacob Izaaksz van Ruisdael)の風景画が好きです。レンブラントなどと同時代の画家ですが、宗教画などに比べると今まで比較的低く見られていた風景画というものを一つのちゃんとしたジャンルに高めた人かもしれません。

 彼の絵の特長は何と言っても画面いっぱいに広がる空です。山が無いオランダやフランドルの地形は平坦でどうしても視線は自ずと空に行きます。灌漑などで人工的に作り上げた土地は湿地も多くその水蒸気は空に昇り雲となって大空に様々な模様を描きだします。オランダ等の旅の楽しみの一つは空の雲を見ることでもあります。



Frandre.jpg



nice!(51)  コメント(5) 
共通テーマ:アート

nice! 51

コメント 5

JUNKO

モノクロ映画を見ているような気持ちになりました。
by JUNKO (2015-05-22 21:17) 

セイミー

ご訪問いただき有難うございます
by セイミー (2015-05-22 21:34) 

katakiyo

自転車で去って行く彼を、私もカメラで追っていました・・妄想
by katakiyo (2015-05-23 05:01) 

ZZA700

このようなものを牧歌的な風景と言うのでしょうか。
映画のワンシーンのようですね。
ゆったりとした時の流れを感じます。
by ZZA700 (2015-05-23 15:10) 

aoitori

格好いいです(^^)

by aoitori (2015-05-23 15:47) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。