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縁側の時間 [下町の時間]

縁側の時間

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  ■ 宗助は先刻から縁側へ坐蒲団を持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐をかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。秋日和と名のつくほどの上天気なので、往来を行く人の下駄の響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。肱枕をして軒から上を見上げると、奇麗な空が一面に蒼く澄んでいる。その空が自分の寝ている縁側の、窮屈な寸法に較べて見ると、非常に広大である。たまの日曜にこうして緩くり空を見るだけでもだいぶ違うなと思いながら、眉を寄せて、ぎらぎらする日をしばらく見つめていたが、眩しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして障子の方を向いた。障子の中では細君が裁縫をしている。
「おい、好い天気だな」と話しかけた。…   (夏目漱石「門」)


  夏目漱石の小説「門」はこんな縁側の情景から始まる。小説「門」はこれから複雑な人間関係のドラマが始まるのだけれども、まるでその前の一時の静寂を楽しむように縁側の時間が展開してゆく。

 今の都会では一軒家といえども縁側とその先に広がる自宅の庭などは望むべくもないが、ぼくの子供の頃は下町の家でも縁側と庭付きの家も珍しくはなかった。ぼくが育った千住の平屋の一軒家にも縁側と庭があって、庭には親父がこしらえた小さな池もあった。

 今思ったらそれほど広くはないスペースだったのだろうけれど、子供の時は縁側の一直線がとても長いものに感じられてよく端から端までダッシュして親に叱られたものだ。子供部屋はあったけれど、特に夏などは家に居る時は大半は縁側で過ごしていたように思う。

 そこは勉強部屋にも(めったに勉強などしなかったけれど…)、プラモデルを組み立てる部屋にも、夏は子供の寝室にも自在に変わることができた。家族のイベントも考えてみればほとんどがそこで行われていたな。夏の花火や冷えたスイカの種の飛ばしっこ。夏の終わりになるとどこからともなくスイカの芽がでくる。

 ぼくのウチは当時は親戚に同じくらいの歳の子供が大勢いたので、親戚の子供達が集まって遊ぶのもやはり縁側だ。縁側でちらし寿司やお菓子を皆で食べる。パーティーなんぞというハイカラな言葉は使いこそしなかったけれど、今考えてみればそれは紛れもなくパーティーだったのかもしれない。

 そして縁側の縁の下は子供たちにとって格好の探検の場所でもあった。ちょっとヒンヤリした空気と微かな埃とカビの匂い。その先に広がる闇は行ってみたいような、行くのが恐ろしいような。ぼくは一度その縁の下で戦時中の防毒マスクを見つけたことがある。最初はなんだかわからなかったけど、その不気味な仮面のようなマスクの先に突き出していた象の鼻のようなパイプが尋常ならぬものだということは子供心にも感じとれた。

 縁の下からは子猫の声が聞こえたり、家で飼っていた鶏の卵が出てきたり異空間につながるドラえもんのどこでもドアみたいな感じだ。今でも地方の農家や古民家に行くと縁側のある家が残っている。それらの家の縁側に座ると、何とも言えない安心感に包まれるのはぼくだけだろうか。もし、時間にも世界文化遺産のように世界時間遺産というものがあるとすれば、貧しくとも幸せだった「縁側の時間」は間違いなく世界時間遺産になると思うのだけれど…。



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コメント 6

ナツパパ

祖父母の家には縁側がありました。
そこで撮った写真は、記事の冒頭の写真と瓜二つでホント驚きました。
...若かった父と叔父伯母たち...着ているものそして笑顔...
たった60年前のことなのに、違う国のようです。

by ナツパパ (2016-09-14 19:49) 

ZZA700

貴重な昭和の暮らしのお写真ですね。
私も夏はスイカの種の飛ばしっこをしました^^
小春日和の冬の日は、寝転ぶとポカポカ暖かかった記憶もあります。
おばあちゃんが良く沢庵でお茶を飲んでましたよ^^
by ZZA700 (2016-09-14 20:21) 

JUNKO

縁側懐かしい言葉ですね。今の若い人は知らないでしょう。私の子供時代にはどこの家にもあり、そこでの思い出はいまだに忘れられないものです。懐かしい気持ちになりました。
by JUNKO (2016-09-14 21:03) 

coco030705

こんばんは。
縁側はうちにもありました。猫がよくでいりしてましたね。たまにイタチもいました。冬の縁側が記憶に残っています。母や祖母がお裁縫をしていたり、猫が平和そうに昼寝していたり。いい場所でしたね。
あのころは、せいぜい2階建ての家が並んでいるばかりで、いつも天神祭りの花火を皆で物干し台から、スイカを食べながら観ていました。いい時代でした。
by coco030705 (2016-09-16 22:28) 

めぎ

縁側、懐かしいですねえ。祖父母のうちの縁側から梅を眺めたり、梅を採ったり、日だまりの縁側で従妹とかけっこ&滑りっこしたり・・・という楽しい日々を思い出しました。
by めぎ (2016-09-19 17:02) 

mimimomo

わが家にも縁側はありました^^
世界時間遺産、なるほど。
by mimimomo (2016-09-20 06:18) 

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