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ビーダーマイアー現象 [新隠居主義]

ビーダーマイアー現象

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 ■「会議は踊る。されど進まず」。リーニュ侯爵の名言で知られる一八一五年のウィーン会議は、革命とナポレオンに搔き乱されたヨーロッパの再建策として催された。だが会議を牛耳ったメッテルニッヒは、革命はもちろん、民主的改革を憎み恐れることなはなだしく、王政復古を企み、旧体制、旧秩序の復活と延命にこれ務めて各国市民階級の期待を裏切った。…
   (「愉しいビーダーマイヤー」前川道介/クラテール書房)
 

 今から200年くらい前のオーストリア、ドイツにビーダーマイヤと呼ばれる文化的特徴をもったごく短い時代が存在した。具体的にはメッテルニヒが活躍したウィーン会議(1814年)から1848年革命までの期間となるのだけれど、その最盛期は1830年代までくらいかもしれない。

 ビーダーマイヤーと呼ばれる時期は短いけれど、それは家具や文学、服装や絵画の領域においてビーダーマイヤー様式というスタイルとして残っている。ビーダーマイヤー様式の絵画はベルリンの旧国立美術館やウイーンのオーストリア・ギャラリー(ヴェルヴェデーレ上宮)でも数多く見ることができる。

 実はビーダーマイヤー様式という立派な名前がついているけど、そこには「取るに足らない」とか「小市民的な」とかちょっと侮蔑的なニュアンスが含まれて居る。これはその文化を作り出した時代背景が大きく関わっていると思う。ビーダーマイヤー時代は別の言い方をすれば反動的時代と言ってよく、フランス革命で盛りあっがっていた市民社会の期待が王政復古によって打ち砕かれ人々の政治への希望、関心が薄れていた時代だ。

 人々の関心は日常の身の回りの事物に移っていった。日常的で簡素で小市民的なものに喜びを感じる感性が湧きあっがってきた。もちろんこれを逃避と見ることもできるし、本当の幸せは立身出世や大時代的な英雄譚にあるのではなく、ごくありふれた身の周りにあるのだという、新たな幸福感の成立と見ることもできるかもしれない。ぼく自身はビーダーマイヤーに関心があるし、そのスタイルも嫌いではない。

 あ、これって何か今の状況にすごく似てはなくないか。胸をふくらませて迎えた輝かしいはずの21世紀は、その期待とは裏腹にテロと民族戦争、そして宗教戦争の世紀の様相を呈している。加えてあのアメリカばかりか南の国でも北の国でも反動的で強権的政治指導者が台頭してきている。世界中で反動のマグマが蠢いているようだ。

 毎日そういう情報に触れていると段々と心が重くなって、それが積み重なってストレスを生み出していると自分でも認識できる程になっている。加えてここのところ母の身体の具合もあまりよくなく、かつ自分の体調も手術を前にしてすぐれないのでどうしても気持ち的に落ち込んでしまう。何とか上向かせようとしているのだけれど…。

 そんな時、この間お風呂場の洗面所のタオルを新しく変えて、これってなんか好いなぁ、と思ってどこか少し心が軽くなった。でも次の瞬間、あ、いかん、これは自分の心の中のビーダーマイヤー現象みたいなもんの始まりかもしれない。もちろん、身の周りの細かい事に目を向けてそこにささやかな美や喜びを見出すのは意味のあることだし、それがそもそもぼくがこのブログを始めた端緒でもあるのだけれど…、でもそれが逃げ道になってはいけないなぁ。逃げ道になってはいけない、でも今のほくは日常のいわゆる些細なことこそが人生の実相だと思っていたりもして。


 しかし時代というものは不思議なもので、その中にいるとわからないけれど何年か何十年か経って一定の距離を置いてみると、現像液の中から次第に姿を現す印画紙の映像のようにその姿が立ち上がってくる。何十年か経って振り返って今の時代を見た時、今が第二のビーダーマイヤー時代に見えてくる、ということもあるのかもしれない。

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*この時代の詩人シュティフターは短編集「石さまざま」の序文の中で
次のように延べ、いかに日常的な事象に目を向けることが大切か述べています。

「…雷雨、稲妻、爆発する火山といった壮絶あるいは壮麗な光景より、
風のそよぎ、小川のせせらぎ、緑の草木、空の輝き、
星の輝きのほうが偉大なのてある。
嵐のような現象は特別なもので、過ぎてしまえばどうということはない。
それよりささやかな現象に現れている普遍的な「柔和な法則」を追及してこそ、
初めて真の驚異に対して目が開かれる。…」

ここら辺にもビーダーマイアー時代の価値観が生きているような気がします。


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