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Déjà-vu No.12 旅先の光 [Déjà-vu]

Déjà-vu No.12  旅先の光

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 ■ …子供のころ、たまらなくどこかへ出かけたくなると、大人は私に「大きくなれば、そんなにむずむずしなくなるよ」といったものである。年齢からいって大人の仲間にはいると、中年になればおさまる、とのことだった。いざ中年になると、こんどは「もっと年をとれば、その病はなおる」といわれた。いま五十八歳だから、これだけ年をとれば、だいじょうぶなはずである。ところが、病はいっこうに治らない…
       (ジョン・スタインベック 『チャーリーとの旅』/大前正臣訳) 


 きっとそんなに長い間ではないのだろうけど、自分としては、もう長いこと旅をしていない気がする。ジョン・スタインベックの小説に上のような部分があるのだけれど、ぼくは70も過ぎたというのに今でも旅の「むずむず」は治らないみたいだ。もう五十年近くも昔、まだ二十歳を少し過ぎた頃ロシアとヨーロッパを抜けてアフリカのカサブランカに行くと決めたとき叔父の一人に「この子は何をやりたいんだろうねぇ…」と訝られたことがあった。

 それは今思うと最初の「むずむず」みたいなもので、自分でも抑えることのできない何かの衝動だったのだろうと思うし、説明しろとか、目的は何だとか言われても答えることができないものだったのだとも思う。とはいえ、その「むずむず」の中身は歳と共に変わってきてはいるようだ。

 若い時のように動き回って何かにぶち当たるのを期待しているようなことは余りなくなった。もちろん体力がなくなってきたこともあるのだけれど、今は動き回るよりも何か新しい「居心地の良さ」みたいなものを探しているような気がする。じゃあ、今が居心地が良くないのかと言うとまったくそういうことはないし、その証拠に旅に出たとたんに後悔して家に帰りたくなる。

 だから、旅の途中で居心地の良い居場所が見つかれば例えば飲み屋やカフェや公園など、あとは動き回りたくなくなるのだ。それを旅と言うかどうかは、よくわからないけど、そういう風に「むずむず」の中身は変わってきた。


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 そういう風に「むずむず」の中身が変わってきたのは歳のせいもあるけれど、その土地を楽しむやり方が若い時のようにただ動き回るのではなくて、どこか居心地のいいところに落ち着いて味わう、その土地の音や匂いや空気、光の移ろいなどをぼんやりと時の過ぎるままに、その中に身を任せて味わうという風に変わってきた。まぁ、半分は怠惰になった言い訳なのだけれど…。

 でも、そうするとちょっと困ったことになった。その土地を味わう一つの大事な要素である匂いが全く分からなくなってしまったことだ。普通、旅に出てその土地の駅や飛行場に降り立った時、真っ先にその土地、その国特有の匂いがぼくたちを襲う。それはある意味でぼくたちに「さぁ、きみの感覚のアンテナをはりなさい!」という合図でもあるのだ。その次にその土地の音が、そして光がやってくる。それが無い。

 以前旅したベトナムやカンボジアはその土地に着いた途端に本来は色々な匂いが洪水のようにぼくらを襲うはずなのだけれど、それがない。その時には既に嗅覚が失われていたから旅に現実味がないのだ。 とまぁ、嗅覚を取り戻す努力はしているけれど、失くしたものを嘆いているだけでも仕方がない。でも、昔の旅の写真を見ていたらぼくにはまだ光が残されていることに気が付いた。

 匂いと同じように、その土地にはその土地の光がある。しかもそれは同じ場所に居ても常に移ろっている。もしかしたら、今まで嗅覚に振り分けていた関心と感性を光の方に注げば、今までとは異なる「居心地のいい場所」を見つけることができるかもしれない。しかも、匂いは記憶の中にだけ残りえるけど、光は努力すればその一部を写真と言う形で残してまた後日味わうこともできるかもしれない。これからは今まで見逃していた旅先の光により目を向けようと思う。もちろん、嗅覚が戻ればそれに越したことはないのだけれど…。



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mimimomo

おはようございます^^
むずむず・・・わたくしもムズムズタイプです。
匂いは思い出しますね。確かに光は難しい。でもおっしゃるように
写真に残すことが出来ます。上手くできているものですね~世の中^^
by mimimomo (2019-02-10 06:35) 

coco030705

こんにちは。
最後のお写真はベトナムのホイアン?でしょうか。今年、行きたいと思っています。
むずむずする、いいですね!この頃、そういう感覚がだんだん失われてきたんですが、旅にでたいという欲求はあるので、ぜひ行きたいです。
むずむずといえば、昨年末以来、QUEENにハマってしまったんですが、コンサートに行きたくて(QUEEN+アダム・ランバート)むずむずしてます。(ちょっと違うかしら(笑)

by coco030705 (2019-02-10 08:58) 

JUNKO

日常生活からの脱出を願う気持ちは高齢になっても同じようです。新しい世界を求める心に終わりはないのでしょう。
by JUNKO (2019-02-10 16:27) 

ゆきち

若い頃はずっとムズムズしていました。
今は家が大好き、これは猫の影響が大だと思われ、家にいるのが一番楽しいのです^^;
初めて沖縄へ降り立った時、タクシーの運転手さんにこんな海の色見たことが無いと言ったら、そりゃ太陽の光が違うからね、と答えが返ってきたのを覚えています。
その土地にしかない光、確かにありますね。
by ゆきち (2019-02-10 21:59) 

Boss365

こんにちは。
「むずむず」いまだにあります。現在、断捨離でネガ・ポジの整理中ですが、旅した場所を再度訪れたいと「むずむず」します。バックパッカーのような旅は出来ませんが、危険を感じる嗅覚は衰えていないと思います?光は眩しく感じると期待しています!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-02-11 13:08) 

めぎ

何度も訪ねているペナン島もザルツブルクも、初めて行く前は何ヶ月も前からムズムズ楽しみにしていました。
今回のペナン島ではそれがなかったし、去年のザルツブルクにももうそれはなかったです。
またそんな気持ちを感じられるところを見つけたいのですが、それもまだです。
by めぎ (2019-02-17 22:20) 

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